Siだけじゃない 進化するパワー半導体材料

半導体といえば「Si(シリコン)」が主流ですが、最近はSiC(炭化ケイ素)GaN(窒化ガリウム)といった新しい材料も注目されています。

背景には、脱炭素社会の実現に向けて「電気をいかに効率良く扱うか」という課題があり、その課題解決で大きな役割を担うのがパワー半導体です。今回はパワー半導体についての理解を深めると共に、新しい材料の特徴や成長予測についてまとめてみます。

パワー半導体とは?

パワー半導体は、電力の「変換」「制御」「供給」を担う電子部品です。家電からEV、再生可能エネルギー、鉄道、データセンターまで、あらゆる電気機器に組み込まれています。

  • 高電圧・大電流を扱えるのが特徴
  • 電力損失を抑え、省エネ・小型化・高効率化に貢献
  • 代表的なデバイス:IGBT、MOSFET、SBD、HEMTなど

 

SEMIくん
パワー半導体の材料もシリコンが主流だったけど、最近はSiCやGaNなどの新しい材料が実用されてきているよ。

材料に求められる4つの物性

シリコンに代わる材料には、デバイスになった時、シリコンよりも良い性能が出る事が求められます。以下4つが代表的な重要な物性です。

バンドギャップ(eV)

電子が動けない“エネルギーの壁”。値が大きいほど高温でも安定動作し、漏れ電流が少ない

絶縁破壊限界(MV/cm)

材料が壊れずに耐えられる電界の強さ。高いほど高電圧に耐えられる

熱伝導率(W/cm·K)

材料が熱を逃がす能力。高いほど冷却が容易で、信頼性が高い

電子移動度(cm²/V·s)

電子がどれだけ速く動けるか。高いほど高速スイッチングや高周波動作に有利

 

SEMIくん
4つとも数字が大きい方が良いんだね!
RIN
では、パワー半導体として注目されている4つの材料の数字を、シリコンの場合と比べてみよう!

材料 バンドギャップ (eV) 絶縁破壊限界 (MV/cm) 熱伝導率 (W/cm·K) 電子移動度 (cm²/V·s)
Si 1.1 0.3 1.5 約1,500
SiC 3.3 2.8 4.9 約980
GaN 3.4 3.3 1.3 約1,800
酸化ガリウム 4.8〜5.3 8.0 0.1〜0.3 約300〜400
ダイヤモンド 5.5 10.0(理論値) 20〜22 約4,500〜4,800

 

各材料の特徴と主な用途

SiC(炭化ケイ素)

特徴

  • ワイドバンドギャップ(約3.3eV)で高耐圧・高温動作が可能
  • 低オン抵抗・高速スイッチングにより高効率

主な用途

  •  EVのトラクションインバータ・急速充電器(2024年時点でSiCパワー半導体の約8割がEV向け)
  •  太陽光発電用パワーコンディショナー
  •  電鉄車両・産業用モーター

市場動向

  • 2024年はEV販売低迷とバッテリー価格下落で伸び悩み
  • EVにおけるSiCパワー半導体採用率は、2024年に10%強だったが2035年には50%を超えると予測
  • 2035年には市場規模2兆9034億円と予測

 

SEMIくん
ずっと注目された来たSiCが最近ようやく本格始動!
RIN
アメリカ、日本、ドイツの企業が中心だったけど、最近は中国がかなり強いよ。

GaN(窒化ガリウム)

特徴

  • ワイドバンドギャップ(約3.4eV)で高速スイッチングが可能
  • 高周波動作・高電力密度に優れる
  • 小型化・軽量化に貢献(特にAC-DC電源)

主な用途

  • AC-DCアダプタ(スマホ・ノートPCなど)
  • サーバー電源(電力密度向上)
  • 太陽光発電・産業用スイッチング電源

市場動向

  • 2024年は量産化と価格低下で採用拡大
  • 2035年には市場規模2787億円と予測

 

SEMIくん
先に市場で採用されたSiCとは別の分野で、GaNの特性を生かして普及していく事が期待されているよ。
RIN
これから注目の材料だね!

Ga₂O₃(酸化ガリウム)

特徴

  • 超ワイドバンドギャップ(約4.8~5.3eV)でSiCやGaNを超える高耐圧
  • 単結晶育成が容易でコスト競争力がある

主な用途(予定含む)

  • 民生機器、サーバー電源(SBD:2026年頃から)
  •  産業用、エネルギー分野(FET:2030年頃から)
  •  自動車、電装分野(高耐圧用途)

市場動向

  • 日本企業が主導していて、実用化はこれから
  • 2035年には市場規模149億円と予測

 

SEMIくん
日本企業がリードしているというのが嬉しい!
RIN
酸化ガリウムのポテンシャルの高さは凄いね!

ダイヤモンド

特徴

  • 世界最高のバンドギャップ(約5.5eV)と熱伝導率(2000W/mK)
  • 高耐圧・高周波・高温動作に最適
  • 物理特性は理想的だが、製造技術が未成熟

主な用途(研究・試作段階)

  • 宇宙・航空機器
  • 高電圧電力変換(将来的なEVや電力網)
  • 高温環境下のセンサー・RFデバイス

市場動向

  • 実用化は2030年代以降と予測
  • 日本・欧州で研究開発が進行中(NEDOなどが支援)

 

SEMIくん
今まさに未来に向けて、開発をしているところなんだ!

各材料の市場成長率

まずはパワー半導体全体の市場成長予測を見てみましょう。(参照元

 

SEMIくん
グラフの青がシリコンで作るパワー半導体。緑がSiCやGaNなどの新しい材料で作るパワー半導体だよ。

以下は新しい材料の市場成長の内訳です。

材料 2025年市場規模(見込) 2035年市場規模(予測) 成長倍率(2035 ÷ 2025)
SiC 約4,558億円 約2兆9,034億円 6.4倍
GaN 約580億円 約2,787億円 4.8倍
酸化ガリウム 僅少 約149億円
ダイヤモンド 数百億円規模(予測)

 

以上、今回は脱炭素社会の実現に向けて、注目のパワー半導体で、シリコン以外の材料についてまとめてみました。