半導体製造で最重要な工程の一つに「リソグラフィ」があります。
スマートフォンやパソコン、自動車などに使われる半導体には、数十億個ものトランジスタが集積されており、それらを正確に配置するためには、ナノメートル単位の精度でパターンを描く技術が必要です。リソグラフィはまさにその微細な回路パターンを描くための工程です。
リソグラフィとは?
リソグラフィ(Lithography)は、ギリシャ語の「lithos(石)」と「graphein(描く)」に由来する言葉で、「石に描く」いう意味です。現代の半導体製造では「光で描く版画」のような技術です。
具体的には、ウェーハ(基板)の表面に「フォトレジスト」という感光性材料を塗り、そこに光を当てて設計図(パターン)を焼き付けます。その後、化学処理によって不要な部分を除去し、必要な部分だけを残すことで、回路の形が形成されます。
この工程は、写真の現像にも似ており、光と化学反応を組み合わせて、極めて細かい構造を作り出します。現在では、1ナノメートル(1ミリの100万分の1)単位の精度が求められるほど微細化が進んでいます。
なぜリソグラフィが重要なのか?
半導体チップには、何十億個ものトランジスタ(電気のスイッチ)が並んでいます。これらを正確に並べるには、非常に細かい設計図をウェーハ(基板)上に描く必要があります。
リソグラフィが重要な理由は、次のような点にあります。
- 性能に直結する
模様が細かく描ければ、より多くの回路を詰め込めるので、チップの性能が上がります。 - 省エネにつながる
小さなトランジスタは、少ない電力で動くため、スマホやパソコンの電池持ちにも関係します。 - 製造の効率とコストに影響する
正確に描ければ、欠陥の少ないチップを効率良く量産できます。
リソグラフィの工程(図解)
ではシリコンウェーハを例にリソグラフィの基本的な製造工程を見てみましょう。
① シリコンウェーハの準備
半導体チップの土台となる「ウェーハ」を用意します。ウェーハは、大きさ直径200mmや300mm、厚さは1mm弱の薄い円盤形状をしています。表面は研磨、洗浄された状態です。
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② 酸化膜の形成
ウェーハの表面に「酸化膜(SiO₂)」という薄いガラスのような膜を作ります。これは後工程で保護膜やマスクとして機能します。
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③ フォトレジストの塗布
「フォトレジスト」という光に反応する特殊な液体を、ウェーハの上に均一に塗ります。これは写真のフィルムのような役割を果たします。
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④ 露光(パターンの焼き付け)
「マスク(レチクル)」を通して、光を照射し、フォトレジストに回路パターンを転写します。すると、フォトレジストの一部が光に反応して性質が変わります。これが設計図を写す工程です。使用する光源は、i線(365nm)、KrF(248nm)、ArF(193nm)、EUV(13.5nm)などがあります。
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⑤ 現像
露光された部分のフォトレジストを化学的に除去します。ポジ型(光に当たった部分が除去される)とネガ型(光が当たっていない部分が除去される)があります。
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⑥ エッチング
フォトレジストで覆われていない部分の酸化膜を削り取ります。
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⑦ フォトレジストの除去(ストリップ)
最後に、不要になったフォトレジストを取り除きます。これで一層分のパターン形成が完了です。
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この後は、形成されたパターンに対してドーピング(不純物注入)やアニール(熱処理)、絶縁膜形成などの工程があります。そして、またフォトレジストを塗布して、③~⑦のリソグラフィの工程を繰り返します。