日本の半導体業界の強みとは?

半導体業界で世界をリードする企業というと、最近はアメリカのNVIDIA、台湾のTSMC、オランダのASMLあたりを連想する方が多いと思います。勿論、それは正しくて、特に最先端分野はこれらの企業抜きにはデバイスは作れません。ただ、私たちの国日本も、実は製造装置や材料、検査技術などの分野で世界トップクラスのシェアを誇る企業が多数あります!

製造装置分野:日本企業がなければ半導体は作れない

半導体製造は1000前後の工程から成り立ち、それぞれに専用の装置が必要です。

日本企業はこの分野で圧倒的な存在感を示しています。

高い世界シェアを誇る企業の例

  • 東京エレクトロン:成膜やエッチング装置で世界シェア上位
  • SCREENホールディングス:洗浄装置で世界シェア約70%
  • アドバンテスト:半導体検査装置で世界トップクラス
  • ディスコ:ダイシング・グラインディング・ポリッシング装置で世界トップシェア

なぜ高シェアなのか?

  • 工程ごとの専門性と技術蓄積
    日本企業は前工程(洗浄・塗布)から後工程(切断・研磨)まで、各工程に特化した装置を長年にわたり開発してきました。
  • 品質と信頼性の高さ
    半導体製造では、装置の安定稼働と精度が不可欠です。日本製装置は「壊れにくい」「精度が高い」と評価され、世界中のメーカーから信頼されています。
  • 消耗品ビジネスによる継続収益
    製造装置の多くは、運用する為に必要となる消耗品が必要です。例えばディスコはこれらの消耗品(ダイシングブレードやグラインディングホイールなど)を自社製造しており、装置が稼働する限り継続的な収益が見込めるビジネスモデルになっています。
SEMIくん
長年の信用と実績で、よりスペックの高い装置が必要な時も顧客に最初に相談して貰えるんだよ。
RIN
新しい装置は採用される為に何度も検証されるので、一度影響力の高い企業で実績が出ると、沢山のリピート受注を期待出来るよ。

材料分野:日本の化学メーカーが世界を支える

半導体の性能や歩留まり(製品として合格する率)は、使用される材料の品質に大きく左右されます。

日本の化学メーカーは、以下の分野で世界トップのシェアを持っています。

高い世界シェアを誇る企業の例

  • フォトレジスト:JSR、東京応化工業、信越化学などが世界シェア約90%
  • シリコンウェハー:信越化学とSUMCOの2社で世界シェア50%以上
  • スパッタターゲット:JX金属が世界シェア60%以上
  • 高純度ガス・薬品:ステラケミファ、関東電化工業などが高い技術力

なぜ高シェアなのか?

  • 高純度・高品質な素材の供給力
    日本企業は、微細化に対応するための高純度材料を安定供給できる技術力を持っています。特にフォトレジストやシリコンウェハーは、世界のファウンドリが日本製を指定するほどの信頼性があります。
  • 地道な研究開発とノウハウの蓄積
    材料分野は暗黙知が多く、長年の試行錯誤による改善が必要です。日本企業は短期的な利益よりも長期的な技術蓄積を重視する文化があり、これが競争力に繋がっていると言われています。
  • 顧客との密接な技術連携
    材料メーカーは、TSMCやSamsungなどの顧客と共同開発を行うことで、製品の最適化と信頼関係を築いています。
SEMIくん
材料の良し悪しで歩留まりが大きく変わると言われているよ。
RIN
長年のノウハウや特許もあって、新規参入のハードルは高い分野だね。

その他:パッケージ・検査・装置部品など

日本の強みは製造装置や材料だけではありません。以下の分野でも高い競争力を持っています。

高い世界シェアを誇る企業の例

  • パッケージ基板材料:味の素のABF(絶縁フィルム)は世界シェアほぼ100%
  • EUVマスク検査装置:レーザーテックは世界唯一のメーカー
  • 精密加工部品・装置部品:ディスコの加工技術は後工程に不可欠

なぜ高シェアなのか?

  • ニッチ分野への集中と差別化
    競争が激しい設計やファウンドリではなく、他社が参入しづらいニッチ分野に集中することで、独自のポジションを築いています。
  • 微細化・高密度化への対応力
    EUV技術や3D構造など、次世代半導体に求められる検査・パッケージ技術に対応できる企業が限られており、日本企業がその技術を独占しています。
  • 装置と材料の垂直統合
    ディスコのように、装置と消耗品を一体で提供する企業は、顧客にとって利便性が高く、継続的な取引につながります。
SEMIくん
競合が少ないニッチ分野でトップシェアを取ると、市場をほぼ独占出来るね。
RIN
競争力が高いと、利益率も高くし易く、経営が安定するよ。

日本政府の支援

日本政府は、半導体を経済安全保障の中核と位置づけ、2030年度までに10兆円以上の公的支援を行う方針を示しています。

支援対象の主な企業・プロジェクト

  • ラピダス(北海道千歳市):2nmプロセスの先端ロジック半導体を量産予定。政府支援額は約9200億円
  • TSMC熊本工場(JASM):第1・第2工場に対して約1.2兆円の支援。地域経済への波及効果は11兆円超
  • マイクロン、キオクシア、ウェスタンデジタル:熊本・広島などでの設備投資に対して補助金支援

支援対象の分野

  • 先端ロジック半導体の量産設備
  • 後工程(パッケージング・検査)技術の開発
  • AI・エッジ向け半導体の設計・製造基盤整備
  • 半導体材料・装置の国内供給体制強化
  • 人材育成・研究開発拠点の整備

 

日本の半導体業界は、設計やファウンドリ(受託製造)では海外勢に押されているものの、製造装置・材料・検査・パッケージなどの分野では世界を支える重要な役割を担っています。

また、政府の支援も本格化しており、ラピダスやTSMC熊本工場などの製造にも力を入れるという事で、今後も成長する世界の半導体業界において、ますます日本の競争力が高くなると良いなと思います。

以上、今回は日本の半導体業界における「強み」をまとめてみました!