半導体は工場の中の「クリーンルーム」でたくさんの装置を使って製造されています。
「クリーンルーム」とはその名の通り「清潔な部屋」なのですが、実際は想像を超えるレベルの超清浄空間です!今回は、そんな「クリーンルーム」の世界を分かり易く紹介します。
クリーンルームとは?――空気まで管理する“無塵空間”
クリーンルームとは、空気中に浮遊する微細なゴミ(微粒子)を極限まで排除した空間のことです。
なぜそこまで清潔にする必要があるのでしょうか?
それは、半導体がナノメートル(1ナノ=100万分の1ミリ)単位の精密さで作られているからです。
人の目には見えないようなホコリや髪の毛の断片が1つでも製造中に入り込むと、それだけで製品が壊れたり、性能が大きく低下してしまうことがあるのです。
空気中のゴミの「量」にまで厳密な基準
クリーンルームは、「どの位清潔か」も世界で統一された規格(ISO 14644-1や米国連邦規格 Fed.Std.209E)があり、厳しく管理されています。
ISOクラス | 粒子径(例) | 最大粒子数(/m³) | 旧Fed.Std.209Eの目安 | 主な用途 |
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ISO 1 | ≥0.1μm | 10 | ― | ほぼ研究・特殊用途のみ |
ISO 2 | ≥0.1μm | 100 | ― | フォトマスク、EUV装置内など最先端用途 |
ISO 3 | ≥0.5μm | 35 | クラス1相当 | 半導体製造前工程の重要エリア |
ISO 4 | ≥0.5μm | 352 | クラス10相当 | 半導体製造前工程の重要エリア |
ISO 5 | ≥0.5μm | 3,520 | クラス100相当 | 半導体製造前工程の重要エリア |
ISO 6 | ≥0.5μm | 35,200 | クラス1,000相当 | 工場内搬送や周辺エリア |
ISO 7 | ≥0.5μm | 352,000 | クラス10,000相当 | 工場内搬送や周辺エリア |
ISO 8 | ≥0.5μm | 3,520,000 | クラス100,000相当 | 工場内搬送や周辺エリア |
クリーンウェアとは?――人間が汚染源
こんなに清潔さに拘ったクリーンルームですが、実はクリーンルームにとって一番のゴミの発生源は人間です。
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呼吸や会話で飛ぶ唾液の微粒子
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髪の毛や皮膚のフケ
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衣服から舞い上がる繊維
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靴底から落ちる砂ぼこり
こういったものを完全にシャットアウトするため、クリーンルームに入るときは「クリーンウェア」を着ます。
全身を包み込むつなぎ型の白衣(または青など)、マスク、ゴーグル、手袋、専用シューズなどを組み合わせ、肌の露出をゼロにするのが基本です。
さらに、入室前にはエアシャワーと呼ばれる風のシャワーを浴びて、衣服についた微粒子を落とします。入室だけで一連の“儀式”のような流れがあるのです。
温度・湿度も徹底管理
クリーンルーム内では、空気中の微粒子だけでなく、温度や湿度、気流の流れまでが緻密にコントロールされています。
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温度:おおよそ22〜24℃前後で一定。季節に関係なく快適な室温が保たれています。
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湿度:40〜60%程度に保たれており、静電気の発生を防いでいます。静電気は微細なチップを破壊する原因になるため、湿度管理はとても重要です。
ロボットの活躍――人間の出番は少なめ?
クリーンルームでは、人の出入りそのものを減らすことも品質維持に大きく貢献します。
そのため、最近の半導体工場では自動搬送ロボットや無人搬送車(AGVなど)の活用が進んでいます。
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材料の搬送
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完成品の回収
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製造装置へのロード・アンロード
などの工程は、多くの場合ロボットが担当。クリーンルーム内で作業する人は、装置の操作や監視、メンテナンスなど、高度な判断が必要な作業に限られてきています。
特に最新の工場(いわゆる「メガファブ」)では、クリーンルーム内を無人搬送システムが網の目のように走り回り、天井から吊り下げ式のロボットアームが材料を移動させる光景が増えています。
以上、今回は「クリーンルーム」についてご紹介しました。
※半導体業界の技術職だからと言って、皆がクリーンルームでずっと働くのではなくて、特にプロセスエンジニア(製造系)、テスト・評価エンジニア(品質保証系)、設備エンジニア(装置・メンテナンス系)がオフィスとクリーンルームを行き来するのが多い印象です。