スマートフォンやパソコンを始めデバイスが、毎年小型で高性能になっているのはなぜでしょう?
この背景には、「ムーアの法則」と呼ばれる、半導体業界の進化の指標ともいえる考え方が存在しています。 今回は、その仕組みと未来の変化(ポストムーア時代)についてご紹介します。
ムーアの法則とは?
「ムーアの法則」とは、1965年にIntel創業者の一人であるゴードン・ムーア氏が発表した、「半導体チップ上に搭載されるトランジスタの数は、約2年ごとに2倍になる」という法則です。
ムーアの法則が長年成り立っていた事で、同じサイズのチップでも、中に詰め込まれる電子回路(トランジスタ)が倍々に増え、性能は加速度的に向上してきました。
その結果、スマートフォンやパソコンは劇的に進化し、価格は下がり、サイズはどんどん小型化されていきました。つまり、2年で2倍、4年で4倍、6年で8倍…と、チップの情報処理能力が驚異的なスピードで進化を遂げてきたのです!
以下はムーアの法則についての有名な資料で、縦軸は一つのデバイスに何個のトランジスタが入っているかを表しています。(参照元)
数字で見るトランジスタの進化
トランジスタの数の増加がどれほど驚異的かは、実際の代表的なプロセッサで確認するとよく分かります。
年 | 製品名 | トランジスタの数 | 備考 |
---|---|---|---|
1947年 | 点接触型トランジスタ | 1個 | ベル研究所が発明。真空管に代わる革命 |
1959年 | 最初期のIC(集積回路) | 数十個 | フェアチャイルド等がIC技術開発 |
1971年 | Intel 4004 | 約2,300個 | 世界初のマイクロプロセッサ |
1982年 | Intel 286 | 約134,000個 | PC時代初期のCPU |
1993年 | Intel Pentium | 約310万個 | マルチメディア黎明期の主力CPU |
2006年 | Intel Core 2 Duo | 約2億9100万個 | デュアルコア時代の象徴 |
2019年 | AMD EPYC Rome | 約395億個 | サーバー向け。9ダイ構成の高集積プロセッサ |
2022年 | NVIDIA H100(Hopper) | 約800億個 | AI演算向けGPU。密度の最高峰レベル |
このように、約75年でトランジスタ数は1個から800億個以上に進化しました。
なぜ約2年ごとに倍増出来たのか?
この進化は、複数の技術の進歩が支えています。
微細化技術の進化
トランジスタのサイズを縮小することで、同じ面積により多くの回路を集積した。
露光装置の性能向上
リソグラフィ技術の高精度化により、極小サイズの配線が可能になった。
材料と構造の改良
高純度シリコンや新型絶縁膜、立体的なトランジスタにより、密度の向上と動作の安定性が両立した。
設計支援ツールの進化(EDA)
複雑な回路配置や配線パターンも、ソフトウェアによって自動で効率的に設計できるようになった。
業界全体の競争と協調
技術ロードマップに沿って各社が競い合いながら協力したことで、継続的な進化が実現した。
限界の兆しとポストムーア時代への移行
長く続いてきたムーアの法則ですが、近年では「この成長ペースを維持するのが難しくなってきているのでは?」という声が増えてきました。半導体業界では、これまでのような微細化による性能向上だけでなく、新しいアプローチへと動き始めています。これを「ポストムーア時代」と言います。
限界まで小さくなってきた
トランジスタは既に3nm(ナノメートル)のプロセスが実用化されています。これは原子レベルのサイズまで微細化が進んでいるという事で、ここから先の微細化は技術的にとても難しいと言われています。
製造設備のコストがとても超高額
次世代チップの製造には、数千億円レベルの設備(例:EUV露光装置)が必要で、開発や量産の費用負担が重くなっています。
チップに求められる役割が変化している
これまでは性能が高いほど良いと言われていましたが、今は省エネ型や目的に合った設計(AI用・IoT用など)も重視されるようになっています。
別の手法で進化を目指す動きが出てきた
複数のチップを連携させる「チップレット」や、立体的に積み重ねる「3D構造」、シリコン以外の新材料(SiCやGaNなど)を使った開発などが本格化しています。
「ポストムーア時代」の考え方が広がっている
「トランジスタの数が約2年で2倍」というムーアの法則に従ってで進化を測るのではなく、構造や工夫によって性能を高めるアプローチが広がりつつあります。
ムーアの法則は、長年、半導体業界で進化の指針と言える存在でした。しかし微細化の限界が近づいてきた最近では、「ポストムーア時代」として、また別のアプローチで半導体を進化させる方向に進んでいくようです。
以上、今回は「ムーアの法則とその先のポストムーア時代」についてご紹介しました。